世界的な食料問題。
日本の食料自給率の低さも憂慮されています。
料理科学や栄養学について勉強している中でふと、思い出したことがあった。
「昆虫は未来の食料として注目されているらしい」
調べてみると内山昭一さんという方にたどり着いた。日本の昆虫料理研究家で、実際に参加者を募り採集から料理試食するまでのワークショップも定期開催している方。
実際に料理写真などは掲載しませんが気になる方は公式ホームページを覗いてみてください。
著書は様々出されているのですがその中から昆虫食入門という本を読みました。
昆虫食という知らない世界を少し覗いてみると個人的には大いに可能性を感じたので面白かったポイントをまとめます。
ブログでは本からの抜粋と僕が調べたことを織り交ぜます。
食料問題の現状
本では食料問題に触れていました。
調べてみると、豊かな日本で暮らしているとなかなか気づけませんがFAO(国連食糧農業機関)によると、2015年現在の飢餓人口は10億人に達しています。世界人口の18%にものぼる。また外務省発表資料によると2050年には97億人にまで人口増加が予測され、それに伴って穀物消費量、食肉消費量も増加。特に畜産用の穀物消費量は食用を上回るペース。
僕も肉は大好きですが、牛や豚や鶏を代表として動物を育てるのに飼料が必要で。動物を育てると人間が食べるものが減ってしまうという関係になっている。人も動物も同じものを食べているということ。
さらに本書によると少し古いデータだが、以下を主張。
農林水産省が2011年に発表した「世界の食料需給見通し」によると、2020年には穀物価格が2008年に比べて名目で24〜34%、肉類が32〜46%上昇する。(中略)バイオ燃料用のトウモロコシや砂糖などの需要が44%増大し、食料生産のための作付け面積の減少をもたらすとの見通しだ。
今後ますます食料問題が顕著になっていくということがわかります。
昆虫食のメリット
栄養価が総じて高く、既存食品と遜色ない
人間は、糖質、タンパク質、脂肪を食物から摂取することが必要であるが肉類が不足すればそれに変わる新たなタンパク質、脂肪が必要になります。
そこで昆虫。
日本人からするとなんとも抵抗がありますが、世界では食品として常食されている地域も多く、実はタンパク質と脂肪が豊富なんですね。同じ量を食べた場合の栄養価比較は次の通りです(一部抜粋)
鶏卵 :水分76.1% タンパク質12.5% 脂肪10.3%
カイコ蛹:水分77.3% タンパク質14.3% 脂肪6.8%
鶏卵の栄養価の高さはよく知られていますが、同じぐらいの栄養価の摂取が可能ということがわかります。そのほかの昆虫で種類によってタンパク質や脂肪のバランスが様々だとい言います。「脂肪抑えめで、タンパク質だけ摂取したい」というニーズにもそうした昆虫を選択することによって対応できてしまうのです。
飼料(エサ)が少なく済む
食料とは離れますがバイオ燃料としてトウモロコシなどのバイオマス用穀物が回されてしまえば、その分だけ人間の食用分は減少します。牛や豚、鶏などの飼料生産によって人間の食用分の作付面積は減ってしまいます。
食料問題を考えるときに、限られたエネルギーを何にどれだけ投資するかは重要な観点です。昆虫はどうでしょうか?本の中ではプロイラー(鶏)と肉用牛と虫を比べています。
カイコ幼虫:飼料要求率4.22g エネルギー変換効率3.20kcal 飼育スペースと生産量221kg 可食部率100%
プロイラー:飼料要求率1.63g エネルギー変換効率2.05kcal 飼育スペースと生産量105kg 可食部率43%
肉用牛 :飼料要求率10~15g エネルギー変換効率-kcal 飼育スペースと生産量-kg 可食部率-%
肉用牛の欄は該当データがないようですが、虫の飼料要求率は牛よりも低い(少量で足りる)ことがわかります。プロイラーとの比較なら、飼料要求率、エネルギー変換率は劣ります(プロイラーは畜産に優れているんですね)が、少ない飼育スペースでたくさんの食料を生産できることがわかります。丸ごと食べられるというのは無駄がありません。美味しいかどうかはさておき。
本では虫が変温動物であることに言及しているのも面白い点です。人間や牛豚鶏のような恒温動物は体温を維持するためにエネルギーを使っていて、一方で昆虫(魚も)は環境に合わせて必要なければ体温を維持するためのエネルギー消費がない。その分、自身の肉にエネルギーが変換されるということ。
日本でも伝統的に食べられている地域がある
日本ではなんと50種類以上もの昆虫が食べられているそうです。中でも長野県トップで山口県、山梨県が続きます。今では虫に対するネガティブイメージも強くなり、(僕もだけど)食べることに抵抗感がありますが、いまだに食べられていたりお土産で購入できるそうです。
よく考えると、多くの人にとって抵抗感がほとんどないハチミツも、ミツバチが花などから一度体に貯め、唾液と混ざりあったものを巣で吐き出して作られています。そのことを知っている人は少ないかもしれませんが、それを知ってもあまり抵抗がありません。
きっと、食品になったときのビジュアルも超重要で、虫の原型がない(蜜だから当然だけど)からで、その点では現在の昆虫食は素揚げや炒めるなど原型が残ってしまうので多くの人にとってNG。海外のベンチャーが開発しているものの中には、昆虫を粉末状に加工するものもあるので、そうすれば栄養価の高い昆虫は受け入れられていくはずです。
味も美味しいようで、どの虫かは言及しませんが「エビの味」「フグの白子以上の旨味」「ナッツの香り」など昆虫によって味わいは様々。グルメ食材としても美味しいという意見が多いと著者は主張しています。
今度、ワークショップに参加してみようかしら。
宇宙食として研究されている
JAXAで昆虫の宇宙食利用が研究されているといいます。
火星などで自給自足する場合、バイオスフィア(閉鎖生態系)の中での農業を最適化してその生産量を安定的に高く維持することが求められる。食物連鎖が一段上がるごとに利用可能なエネルギーは1/10に減ずる。このため可食バイオマスを飼料として動物を飼育することは、きわめて資源利用効率が悪いことを意味する。昆虫は、人間に非過食な木の葉や排泄物などを飼料とすることができ、可食バイオマス生産と競合しないで動物性食品を得ることが可能となる。
宇宙という資源が有限で厳しい生存環境の中で昆虫は合理的だということ。地球から運ぶときは卵の状態でコンパクトに、現地で孵化させ育てれば、虫は成長が早いというメリットもある。
実際に昆虫が食べられている地球のある地域では養殖農家が存在するようですが、成長スピードの速さ、また手間がかからず1日2〜3時間の餌やりほどで育てられる簡便さもあってビジネスとしても伸び代があるようです。
地球上の全員が好んで食べるという未来はまだ程遠いかもしれませんが、一部の人達の中ではすでにご馳走であるし、食料問題や、もしかしたら宇宙開発において昆虫食がスタンダードになり脚光を浴びれば、人々の関心を得られるかもしれません。栄養価が高いというのはまぎれも無い事実で、いかにして「昆虫を食べる」というハードルを超えるか。クリアされるととても可能性に満ちた食料だと感じました。
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